王子様の溺愛【完】※番外編更新中
夕飯を食べ終えた後、二人はリビングで縁が淹れた温かいコーヒーを飲みながら、お互いの近況や世間話などの話で花を咲かせていた。


「北海道ってやっぱり寒いね。ここへ向かう途中も雪がちらついていたよ」

「四月でも雪が残っているくらいですよ。桜の開花なんかは五月と遅いんですよ」

「へえ」


身振り手振りで話す縁に、依人は微笑ましそうに耳を傾けていた。


「先輩、ずっと疑問だったのですが、どんなバイトをしているんですか?」


縁は実は前々から気になっていたことを依人に尋ねた。
知っているのは大まかな勤務時間だけで、それ以外は全く知らなかった。


(コンビニか飲食店かな? 接客をしてたら女のお客さんにモテそう)


縁は、コンビニでレジ打ちをしている依人が、複数の女の子に言い寄られている様子を頭の中で思い浮かべた。


「内緒」


しかし、依人は縁の疑問に答えてはくれなかった。


「教えてくれないんですか?」


縁はしょんぼりと残念そうに眉を下げる。


「どんなバイトだと思う?」

「えっと、バーテンダー、カラオケ店員、飲食店のホール、コンビニのレジ打ち、家庭教師……」


縁は指を折りながら思い付く限り職種を挙げてみた。


「どうですか?」


目を輝かせながら依人の反応を待っていると、依人はにこりと微笑み、両方の人差し指で小さなバツ印を作った。


「全部はずれ」

「うう、はずれですか……結局どこで働いているんですか?」

「その内教えてあげるよ」


結局、依人にうやむやにされてしまい、分からずじまいに終わった。


今教えてください、と本音が喉まで出かけたが、しつこく何度も尋ねるのは気が引けて、素直に頷いた。


ふと、リビングの壁に掛けられている時計に目をやると、時刻は八時を過ぎていた。


(そろそろお風呂の準備をしなきゃ。先輩、移動でお疲れだろうから、先に入ってもらおうっと)


「そろそろ、お風呂の準備をしてきますね。先輩から入ってくださいねっ」

「ありがとう」


縁は依人を一瞥してから、ソファーから立ち上がると、浴室へ歩みを始めた。
リビングを出た瞬間、縁は頬に集まる熱を自覚した。


(さっきのやり取り、なんだか同居しているみたいだよ)


廊下を歩きながら、ほてり出した頬を覚ますように手のひらでパタパタとあおぐ。


しかし、頬のほてりは中々消えてはくれなかった。


(もし先輩と一つ屋根の下なんてしたら、心臓が持たないよ……)


胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
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