王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「おまたせ」
リビングに現れたのは、湯上がり姿の依人。
黒の長袖のTシャツに同色のスウェットと言う変哲もない格好だと言うのに、どこからともなく色気が漂っている。
(先輩、また格好よくなった……もうすっかり大人の男の人だよ)
縁は思わず見とれてしまったが、頬が緩まないように引き締めては平静を装う。
「温まりましたか?」
「ちょうどいい湯加減だったよ。縁もゆっくり入っておいで」
「はい、行ってきますね」
縁はにこりと微笑み、あらかじめ用意した着替えを抱き抱えながら小走りで浴室へ向かった。
それから四十分後、縁は乾ききっていない髪のまま浴室を後にした。
いつもはドライヤーで丁寧に乾かすのだが、一刻も早く依人の元へ行きたい気持ちが縁を焦らせたのだ。
「先輩」
リビングに入り、ソファーに座っている依人に声を掛ける。
スマートフォンの画面を見ていた依人の視線が、縁に向けられた。
「ちゃんと温まった?」
「はいっ」
縁は笑顔で頷くと、依人の隣に腰を下ろした。
「毛先が濡れてる。ちゃんと乾かさなきゃ風邪引くよ?」
依人の指が縁のひと房の髪に触れる。
髪の毛に神経は通っていないはずたが、触れるだけで胸が甘く締め付けられてしまう。
「普段はちゃんと乾かしてます。ただ、先輩のとこに早く行きたくてつい……」
視線を床に落とし、自分のパジャマの裾を握り締めながらぼやくと、突然、抱き寄せられた。
「あ、あのっ」
(いきなりは、ドキドキするよ……っ)
二年前と比べて少し逞しくなった腕に、縁の鼓動は早鐘のように打ち続けている。
「不意打ちでそんなことを言うの、反則だって」
依人は縁の首元に顔を埋めると、小さく呟いた。
(反則なのは先輩の方です!)
最早心臓は悲鳴を上げていると言っても過言ではない。
「せ、先輩、ちょっと離れてくれませんか?」
「なんで? さっき積極的に抱き着いてきた癖に」
「それは……っ」
顔を上げてにやりと意地悪そうに口角を上げる依人。
唇が触れ合いそうな至近距離に、縁は茹でだこのように赤く染まりだした。
「照れてる? 本当、可愛い……」
依人はそんな縁を離すどころか、更にきつく抱き締めて密着させた。
「ひゃ、ち、近いですっ」
依人の甘さが炸裂して、縁の余裕のキャパシティは限界を超えてしまいそうだ。
「可愛がるって言ったでしょ?」
「んっ、」
依人はお構いなしにそっと縁の顎を指で上げると、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
縁の呼吸に合わせるように離れたかと思えば、また塞いでいく。
甘ったるい口付けに、全身の力はすぐに抜け落ちていく。
口付けは何度も繰り返されて、縁は声を洩らしながら受け止めるしか出来なかった。
「ご馳走さま」
依人は最後に唇に触れるだけの軽い口付けを落とすと、縁を解放させた。
(あれ……? 今あたし、離れるのやだって思ってた)
抱き締められた時は恥ずかしくて仕方なかった癖に、いざ離れると無性に寂しくなった。