王子様の溺愛【完】※番外編更新中
(先輩に甘えたい、可愛がってほしい……)


縁はおずおずと近寄ると、くっ付いてぎゅっと依人に抱き着いた。


「さっき、離れてって言ってなかったっけ?」


依人の問いに縁はぶんぶんとかぶりを振っては、さらに引っ付く。


「あれは嘘ですっ。やっぱり、いっぱいぎゅってして……キスしてほしいです」


抱き着いたまま見上げると、甘えるようにねだった。


「その誘い方、誰に教わった?」

「え……?」


依人の言っていることが分からず、きょとんと小首を傾げてしまう。


「――――キスで我慢しようと思ったのに」


依人が何か独りごちた瞬間、縁の視界に映っていた依人の顔が、今では見慣れたリビングの白い天井に変わった。


「……っ!」


そっとソファーの上に押し倒されて、自分の上に依人が跨っている。
いくら抜けていても依人のした行動が分からないほど、鈍感ではない。


全身の熱が上昇していくのを自覚した。


「ごめん。今の俺は縁に優しく出来ない……どうしても無理なら俺を蹴飛ばして、逃げて」


(優しく出来ないなんて言っておいて、あたしに猶予をくれようとしている……先輩はとっても優しい人だ)


言葉とは裏腹に手首を掴む手も縁に気遣うように優しいものだ。


そんな依人に無性に愛おしい気持ちが湧き上がり、縁は一切抵抗することなく笑顔で依人を見つめた。


「あたし、先輩を蹴飛ばすことも逃げることもしません……あたし先輩の卒業式の時から考えていたんです」


縁は潤んだ瞳をしたまま依人の耳元に顔を近付けると、内緒話をするように囁いた。


"――――次に会う時が来たら、先輩のものになるって"





「縁……」

「はい……ひゃあっ」


依人は縁を一瞥すると、性急に軽々と抱き上げた。


「本当にいいんだね?」

「はい……っ」


この時の縁は、今にも湯気が出てもおかしくないほど真っ赤な顔だった。


(聞いて確かめるってことは、あたしをもらってくれるって意味だよね?)


依人がその気だと知ると、縁の鼓動は緊張で暴れだした。


「緊張してる?」

「正直緊張してます。大好きな人にあげるんですから……」


ガチガチに固まる縁に、依人は落ち着かせるように額と頬に軽い口付けを落としていった。


口付けのお陰か、縁はふにゃふにゃと軟体動物のように脱力した。


「縁の部屋は二階?」

「奥の部屋です……」


依人は縁を抱き上げたまま、リビングを出て階段をゆっくり上がっていく。


縁は依人の肩にしがみつくと、赤い顔を隠すように首元に埋めた。






再会を果たしたこの夜、二人にとって一生忘れられないひと時となった――――
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