王子様の溺愛【完】※番外編更新中
不意にこつん、と額が触れ合う。


「縁、話したいことがあるんだ」

「え……」


前触れもなく話を切り出されて、藪から棒になんだと不思議そうに依人を見つめる。


「座って話そうか」


手を引かれてリビングに場所を移すと、ソファーに並んで腰掛けた。


(話ってなんだろう? まさか……ううん、ネガティブ禁止!)


縁は別れを告げられる妄想を必死に掻き消すと、緊張した面持ちで依人を見つめた。


「春から従兄弟のお兄さんと住むって言っていたよね?」

「はい。来週荷物を送る予定です」

「そのことなんだけどね……」


(どうしたのかな……)


縁は緊張した面持ちで、依人が話を切り出すのを静かに見守っていた。
待っている間、緊張してしまい背筋を伸ばして畏まってしまう。


リビングの壁に掛かっている時計は一分も経っていないが、縁はその間が長く思えた。


「春になったら俺と一緒に住もうか」


その時、耳に入ったのは予想もしない発言だった。


「……えっ、ええ!?」


縁はフリーズしたパソコンの画面のように固まったが、我に返ると、動揺を隠せないのかきょろきょろと目線を動かしていた。


「住むって、本気なんですか?」

「縁から大学合格の話を聞いた時から考えていたんだ」

「でも、あたし達まだ学生だから、難しいんじゃないですか……?」


大学生になると高校生よりアルバイトの選択肢は増えるが、それでも親に頼らずに生活するのは容易いものではない。


「昨日、今度バイト先教えるって言ったの覚えてる?」

「覚えてます」

「バイト先ね、家の会社」


“ウチノカイシャ”
頭の中で、呪文を詠唱するように頭の中で繰り返す。


依人の言葉から、桜宮家がやっている会社があるという意味になる。
依人はいい所の子息と言う推測に辿り着いた瞬間、縁はムンクの叫びと同じポーズをし、ひどく驚きを露わにした。


「学生しながら親の仕事を手伝っているんだよ。だから金銭面は大丈夫」


縁は、二足のわらじをやってのける依人のハイスペック振りに開いた口が塞がらなかった。


「先輩、あたしが彼女でいいんですか……?」


一般家庭の自分では、依人に相応しくないのではないか、そんな不安が縁の心を占領する。
押し潰されそうな不安に涙腺が緩み始めた時、温かいものに包まれた。






「縁じゃないと駄目だから」
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