王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「それなら受け取るよ」


依人は苦笑いを浮かべながらそう応えると、縁は「よしっ」と両手で依人の手を握った。


触れた縁の手に、鼓動が過剰に跳ね上がった。


(中学生かよ……俺)


豊富とまでは行かないが、それなりに経験のある依人は縁に対する己の反応に呆れた。


(俺、佐藤さんに振り回されてるかも。だけど嫌じゃない)


握られたままの手を見つめながら考えていると、突然縁は素っ頓狂な声を上げた。


「……あ、あぁあっ、いきなり手を握ってごめんなさいっ!」


縁は自分のした行動に気付くと、頭を抱えながら狼狽えだした。


(佐藤さん、結構天然……?)


挙動不審な縁が面白くて、我慢出来ず噴き出してしまった。


「先輩!?」

「ごめん……佐藤さんの反応がツボったみたい……」


今縁の顔を見ると、余計に笑えてくる自信があったのでので机に突っ伏して落ち着くのを待ちながら堪える。


「先輩……わ、笑い過ぎですっ!」


顔が見えなくても、声音から狼狽えているのが手に取るように分かってしまい、また笑いが込み上げてくる。





ようやく落ち着いてきたので顔を上げて、縁の顔を見ると、少し膨れっ面をさせていた。


「ごめんね」

「……キョドってておかしいって思ってますよね」

「おかしくはないよ。佐藤さんのそういうところ可愛いと思うよ」


決してその場しのぎではない。
大人しくてふわりとお人形さんのように愛らしく微笑む縁が、感情を露わにするところを見て、面白いの他に人間らしくて素敵だと思った。
だから、心に浮かんだことを要約して“可愛い”なんて口にした。


縁は依人に向けた目を見張ったまま硬直した。


「先輩って、誰にでもか、可愛いなんて言えるんですか?」


心外だった。
まさか軽い男だと思っているのだろうか……。
暇潰しだとか、欲求解消でするその場限りの付き合いは、する人間もされる人間も嫌悪を抱くくらいだ。


「まさか。本当は騒がれるのは好きじゃないんだよ」


縁に会うまでは、関わる女子は皆同じように見えた。
己の内面を深く知らないはずなのに、熱に浮かされたように自分を囲む女子の心理が理解出来なかった。


そう思ってしまったのは、何より自分が一切興味を示さなかったからだろうと依人は思う。


しかし、縁だけは違った。
もっと知りたい、色んな顔を傍で見ていたいと願わずにはいられないのだ。
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