王子様の溺愛【完】※番外編更新中
出会った頃よりも距離が少しずつ縮んできたものの、先輩と後輩の距離感は相変わらずだった。


変わったことと言えば、依人の中にある縁への想いが大きくなったことだ。


無意識の上目遣いで見つめられたり、笑いかけられると、抱き締めたい衝動に駆られてしまう。
かろうじて、縁を傷付けて泣かせたくないと言う思いが無けなしの理性を働かせていた。


いい先輩の顔を続けることに、疲れを感じ始めた頃。






「縁ちゃん、いつも勉強見てくれてありがとう」

「ううん。困ったときはお互い様だよ」


朝、生徒用玄関の前で縁が同学年だろう男子生徒と話をしている場面を見かけた。
これまで縁が他の男子と話しているところを見たことがなく、依人はその二人から目を離すことが出来ずにいた。


男子が鼻の下を伸ばしている辺り、縁に惚れていることは明白だった。
表立ってはいないものの、水面下では縁に憧れを抱く男は唸るほどいる。


「それで縁ちゃんにお礼がしたいんだ。ケーキ奢らせて?」

「そんなのいいよっ」

「いつもお世話になってるから、これくらいはしなきゃ」

「あの、ありがとう……」

「今度の休み行かない? オススメの店案内するよ」

「う、うんっ」


(……面白くないな)


舌打ちしそうになる。
好きな子が他の男と話しているところを見ると、虫唾が走る。


(無性にイライラする……こんなこと今までなかったのに)


今までの恋でこんな強い嫉妬を抱いたことはなかった依人は、初めて知る己の一面に動揺を隠せなかった。


このまま縁と向き合えば感じの悪い態度を取ってしまいそうな気がして、依人は気付かれないようにその場から立ち去った。


そしてーーーー


“今日の昼休み、一緒にご飯食べよう”


教室へ向かいながら、スマートフォンを操作し、縁宛にメッセージを送った。


教室に辿り着き、クラスメイトの挨拶をそこそこに返しながら席に向かっていると、ズボンのポケット中にあるスマートフォンが震えた。


早速、取り出して画面に指をすべらせると、縁から返事が来ていた。


“分かりました”


可愛らしい笑顔の顔文字を添えたそれに、密かに抱いた苛立ちは嘘のように消え去った。


「俺は現金なヤツだな……」


依人の独り言は、教室のざわめきに溶け込んだ。
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