神木部長、婚姻届を受理してください!
部長室を出るとすぐそこにある、私達機械設計一課のオフィス。機械の図面を専用ソフトを使って作成するこの部署で、私は事務を担当していた。
「あら、沙耶ちゃん。つまらない顔して、また部長に振られでもした?」
私と同じく事務の制服を身に纏った黒髪の綺麗な女性。彼女は、面白そうに口角を上げると私にそう問いかけてきた。
彼女は私よりも7つ年上の先輩、林田香織(はやしだかおり)。香織さんは、高校時代の同級生と25歳の頃に結婚したらしい。話を聞く限り、とても仲良しの夫婦だ。
「振られたというか……婚姻届を出したら、悪ふざけも大概にしろって怒られました」
私は、そう嘆くと肩を落とした。香織さんは、私の一言に目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑いだす。
「婚姻届? あはは!いや、沙耶ちゃん。私ね、貴女のそういうところ、好きよ」
褒めているのか、はたまた小馬鹿にしているのかは分からない。だけど、私は「ありがとうございます」と香織さんに返すと、とぼとぼオフィス内を自分の席に向かって歩き始めた。