神木部長、婚姻届を受理してください!

 リビングを出て右手にある扉を開いた洋さんに続いて部屋に入る。すると、壁につけられた縦長の鏡と、その前にある美容室にあるようなスタイリングチェアがあった。

「何だか、美容室みたいですね」

「彼、スタイリストしてるのよ。今は美容師の店長してて、昔はモデルさんのメイクしたりもしてたの。だから、沙耶ちゃんを大人っぽくする為に手を借りない理由がないでしょ?」

 ぼうっと立ち尽くす私の後ろから、香織さんがそう言う。私は、香織さんの声を耳に入れながら後ろを振り返った。

「でも、良いんですか?」

 どうして香織さんがここへ連れて来たのかがやっと分かった私は、遠慮気味に香織さんと洋さんの顔を交互に見た。

「そんなの大丈夫よ。ね? 洋」

「もちろん」

 二人は、私の言葉に笑顔で首を縦に振った。

 申し訳ない気持ちに負けてしまいそうだった私の後ろから「神木部長に大人の女として認められたいんでしょ?」と香織さんの声。私は、その言葉によって、自然と丸まっていた背筋がピンと伸びた。

「よろしくお願いします」

 神木部長に大人の女として認められる。その為に、香織さんはここに連れて来てくれて、洋さんも手を貸してくれると言ってくれているのだ。

 確かに申し訳なさはあるけれど、私には、一刻も早く神木部長と恋人同士……いや、結婚をするという目標がある。

 香織さんの言うとおり、この二人の手を借りない理由なんてない!


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