神木部長、婚姻届を受理してください!
神木部長に分かってもらえるように、ちゃんと気持ちを伝える。
そう決めたはいいものの、決めたあの日から一週間、私は何も動き出せずにいた。それどころか、部長とはろくに話をしていない。
「沙耶ちゃん、さっき部長のこと無視してたでしょ?」
「えっ!」
資料室からオフィスに帰ろうとしている途中、突然背後から声がかかった。いつの間にか私と肩を並べて隣を歩いていたのは香織さんで、私は香織さんの言葉に少しギクリとした。
「最近、ただえさえ沙耶ちゃんと部長が話してるところを見ないから何かあったんじゃないかって皆んな噂してるんだから、あんな風に無視すると余計怪しまれるわよ」
「はい……そうですよね。分かってはいるんですけど……」
香織さんが言っているのは、今からほんの数十秒まえの出来事。
私が資料室を出たところで、偶然にも部長が私の立っている方向へ向かってきていた。それを見た私は、慌てて数メートル先にいる部長に背を向けるとまるで逃げるかのように歩き出してしまったのだ。
と、ここまではまだ良かったのだけれど。その後、背後にいる部長から「立川!」と名前を呼ばれたことに気づいていながら、私は振り向かずここまで歩いてきてしまった。恐らく、香織さんはその現場を目撃したのだろう。