神木部長、婚姻届を受理してください!
「気持ちは分かるけど、いつまでもそうしてるわけにはいかないよ」
「そう、ですよね」
ぼそりと呟くように言葉を零し、視線を足元に向ける。
確かに、香織さんの言う通りだと思った。想いを伝えると決めておきながら、私は部長のことを避けて、避けて、避け続けて、ついに無視までしてしまった。
部長は私に仕事の話をしようとしたのかもしれないというのに、私は職場に私情を持ち込んだ。部長にも嫌な気持ちをさせてしまったかもしれないし、このままでは駄目だ。絶対に。
「ちゃんと、今週中にはタイミングを見つけて話してみます」
「そう。分かった」
香織さんが安心したような表情で頷いた。その後、私の背後に視線を向けると目を丸く見開いた。
「沙耶ちゃん、早くもきたみたいよ。タイミング」
「え?」
ゆっくり、後ろを振り返った。すると、そこにはこちらへ向かって歩いてきている神木部長の姿があった。
「まさか、今ですか?」
「今じゃなかったらいつ言うの? まあ、沙耶ちゃんがいいなら言わなくてもいいんだけど、無視したことだけは謝った方が良いと思うな。ほら、部長も仕事の話をしようとしてたのかもしれないし」
そうでしょ? と香織さん。
私が渋々小さく頷くと、香織さんは笑顔で「よろしい」とだけ言い残して去って行った。