神木部長、婚姻届を受理してください!

「立川」

 香織さんの後ろ姿を見送っていると、背後から声がかかった。私は、小さく深呼吸をするとゆっくり後ろを振り返った。

「はい」

 小さく返事をして振り返った私に、神木部長は少しだけ安心したような柔らかな表情を浮かべた。

 久しぶりにしっかりと見た神木部長の顔に、私はまた、彼を〝好き〟だという気持ちが大きくなるのを感じた。

「さっきも呼んだんだけど、聞こえてなかったみたいだったから。最近、様子もいつもと違うし……何かあったのか?」

 心配そうに私の顔を覗き込む部長。

 彼は、聞こえていたけれど無視をしてしまった私を決して悪くは言わない。あの距離で声が聞こえないなんて事があるわけないのに、私を怒るどころか心配してくれる。私は、部長のそういう優しすぎるくらい優しいところにもどうしようもなく惹かれてしまう。

 留まることを知らない部長への〝好き〟という気持ち。このままでいたって、仕方がないのだから、香織さんの言う通り、しっかり気持ちを伝えて振ってもらうのが一番の手なのかもしれない。

「部長」

「ん? どうした」

「少しだけ……お時間頂いてもいいですか? 話したい事があります」

 いつもと同じように優しい表情を私に向けてくれている部長。私の発した言葉に、部長は何かを察したのか「部長室で話そうか」と言って先を歩き始めた。

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