神木部長、婚姻届を受理してください!

 部長室に入ると、部長はデスクの上に手にしていた資料をそっと置いた。そんな部長を見ながら、私は入り口付近で立ち止まった。そして、何から言い出そうかと思考を回転させた。すると。


「ごめん。立川」

 先に言葉を発したのは神木部長の方だった。しかも、神木部長の口からは〝ごめん〟という謝罪の言葉が出てきた。

「何か、俺が嫌な思いをさせてるんだよな? 林田にも聞いたんだけど、詳しくは教えてくれなかったから、今日、直接聞こうと思ってたんだ」

 想像もしなかった部長の言葉に、私はしばらく頭の整理がつかず声が出せなかった。

 やっと整理が出来た私は、ひとまず必死で首を横に振る。それから、ゆっくり口を開いた。

「……違います」

「え?」

「嫌な思いをさせてしまってたのは私の方じゃないですか」

 必死で絞り出した私の言葉に、神木部長は目を丸くした。

「私が神木部長にしている言動に、ずっと困ってたんですよね? 迷惑なのに、部長のことを考えずに自分勝手なことばかり言って……今まで、すみませんでした」

 ぎゅっと下唇を噛んで、頭を下げた。

 部長の表情を見るのも、次の言葉を聞くのも、このあと起こること全てが怖くて顔が上げられなかった。私は、その後しばらくそのままでいた。

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