神木部長、婚姻届を受理してください!

「神木部長のことは諦めます。なので、これからも上司と部下として、お願いします」

 頭を深く下げて、唇を噛み締めた。

 気を緩めればすぐに零れ出しそうな涙を止めるのに必死だった。だけど、それ以上に神木部長をこれ以上困らせたくないという気持ちも強かった。

 こうして、しっかりと部長に振られた私は、ぎこちないながらも神木部長とただの〝上司〟と〝部下〟として、今までと変わらず働き続けている。


「ごめんね。私、沙耶ちゃんより長く生きてるけど、良い言葉が見つからないみたい」

「大丈夫です!香織さんには、それ以上のものをいつももらっているので」

 今の私には、慰めの言葉も、励ましの言葉も虚しくなるだけ。だから、私は自分から口を開くと、香織さんに笑顔を見せた。

「沙耶ちゃん……」

「話聞いてもらえて更にすっきりしました!しばらくは少し引きずるかもしれないですけど、もっと素敵な人に出会えるように努力します!」

 私の言葉に、香織さんが少しだけ安心したように笑って頷いた。

 香織さんの表情にほっとした私は、また、改めて次に進む決意を固めた。

 部長にははっきりと断られたのだから、これ以上引きずるわけにはいかない。しっかり切り替えて、進んでいかないと──。

 
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