神木部長、婚姻届を受理してください!
「あ、立川ちゃん」
「西内さん。お疲れ様です」
駐車場点検を終え、事務所に戻る途中。向かい側から歩いて来た西内さんが私を引き止めた。
「あ、駐車場点検してきたんだ? お疲れさん。お疲れのところ悪いんだけどさ、一個さ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど確認させてもらってもいい?」
人差し指を立て、何やら不敵な笑みを浮かべた西内さん。私は、何のことか分からず、ただ黙って首を縦に振った。
「最近、神木部長と話してるところ見ないけど、二人ってさ、付き合い始めたの? それとも付き合ってたけど別れたの?」
「聞きたかったことって、それですか……」
西内さんからの突然のプライベートな質問に、私はため息混じりに言葉を漏らした。
社内一人懐っこくて、優しくて、28歳という若さで未婚の彼は、男女問わず人気者。そんな彼は社内一情報通でもあるのだから、よく考えればこの手の質問が来ることくらいは予測が出来たはずだった。
「神木部長とは、何もないですよ」
「えー、嘘だ。怪しい」
軽くあしらおうとした私を、ぎろっと不審な目で見る西内さん。何かを見透かしていそうなその瞳に、私はもう一度ため息混じりに口を開いた。
「本当に何もないです。ただ、最近話をしていないのは、私が神木部長を諦めるって決めたからです」