神木部長、婚姻届を受理してください!
「ええええーーー⁉︎」
慌ただしく仕事中の社員さんや、途中休憩に向かう社員さんが行き交う廊下のど真ん中。私の発言によって、西内さんの大きな声が響き渡ってしまった。
「声、大きいです!」
人差し指を立てて口の前に置く。すると、彼はハッとしたのか「ごめんごめん」と言って両手を合わせた。
私は、西内さんに聞こえない程度の小さなため息を吐くと視線を足元に落とす。
「いや、予想外……というかあり得ない展開で驚きが隠せなかった」
大声を出したことを反省したのか、普段の声の大きさよりも小さな声で西内さんが言った。
「予想外なんかじゃないですよ。元々、神木部長は私の事なんてまるで相手にしてなかったですし、私の好意も〝冗談〟や〝悪ふざけ〟だと思ってたみたいですし。遅かれ早かれ振られてたと思います」
「ええ、そうかな? そうは見えなかったし、俺なら一回りも年下の可愛い子ちゃんに好意持たれたら超嬉しいし絶対振らないけどなー……でも、まあ、振られたなら、そういうことか」
元気だしな、と言ってズボンのポケットを探った西内さんがそこから何かを取り出した。
目の前に差し出された西内さんの右手拳。私は、その拳の下に手のひらを差し出す。すると、私の手のひらには二つの飴が落ちて来た。
「何かあったら聞くし、力になれることがあればなんでも言ってよね」
「ありがとうございます」
「長話しすぎちゃったし、そろそろ帰りますか」
「はい」
やっぱり、とても人懐っこくて、お節介とも取れる性格。だけど、彼はどうしてか憎めない不思議な人。
そんな西内さんから受け取った飴を、私は二つ、ぎゅっと握りしめた。