神木部長、婚姻届を受理してください!
できることなら、まだここにいたい。もっと、部長と一緒にいたい。
彼女がいるんだから、そんな考えを持つこと自体ダメだって分かってるのに、どうしても身体が動かない。
「……立川? どうした?」
俯いて唇を噛む私を、心配そうな表情を浮かべた部長が覗き込んだ。
部長はいつだってそうだ。私が悲しいときは絶対にこうやって心配そうな表情を浮かべて寄り添おうとしてくれた。バカみたいに好きだと言って困らせたって、軽くあしらいながらも絶対突き放そうとはしなかった。
それが嬉しくて、幸せで、私はずっと部長を好きでいることをやめなかったし、やめられなかった。少し前までの私なら、それでよかった。それでも幸せだった。だけど。
「……部長のバカ」
「えっ?」
「そんな風に優しくされたら、諦められなくなるじゃないですか!振ったのに、そんなのずるい!」
諦めようとしてるのに、と発した瞬間、堪えきれなかった涙が一筋流れた。
私は、それを必死で隠すために俯くと、唇を強く噛んだ。
「私、まだ部長のこと……」
つい、言ってはいけない言葉を発してしまいそうになったその瞬間。部長の胸ポケットに入っている携帯電話のバイブ音が鳴り響いた。