神木部長、婚姻届を受理してください!
「ごめん。立川、ちょっと待って」
神木部長はそう言うと、携帯電話を取り出して耳に当てた。
「中幡? どうした」
神木部長が電話に出て発した第一声に、私の胸はぎゅっと締め付けられ、また涙が溢れ出そうになる。
部長の相槌や中幡さんに向けられた声を聞きながら、ただじっと唇を強く噛んで待ち続けると「悪いけど、後でそっち行く」と言う言葉を最後に電話が切られた。
親しげな口調と、最後の言葉。分かってはいたけれど、やっぱりつらい。
この後、部長は中幡さんのところに行ってしまうのか。そう思うと、嫌で、嫌で、涙もそろそろ堪えるのが限界だった。
「立川、あのさ」
「嫌だ。行かないで、ください」
きっと、これから中幡さんのところに行かないといけないから、と言われると思った。だから私は、咄嗟にシャツの袖を掴んでしまった。
神木部長には彼女がいるのに。こんなこと、絶対したらいけないのに。分かっているけど、自分の気持ちばかりが先走ってしまって、頭が全然追っつかない。
「……好き、です」
「立川」
「まだ、好きなんです。中幡さんがいるって分かってるけど、だけど、どうしても好きなんです」