神木部長、婚姻届を受理してください!
「ええ!全然そんな事ないです!」
ぶんぶんと首を横に振って否定する私をよそに、香織さんはテーブルにやって来たスタッフさんへ「日本酒の辛口が呑みたいんですけど、どっちがおすすめですか?」と注文をし始めた。
スタッフさんと話を続けている隣の香織さんから、段々遠くに視線を移す。向かい側の一番隅に腰掛けている部長を視界に入れると、私は嬉しいような、でも寂しいような複雑な感情になった。
滅多に飲み会に参加することのない部長がこの場にいることは嬉しい。だけど、話せないのはやっぱり寂しい。どうしても話したいのだけれど、他の人と話をしているところを割り込むほどの勇気はない。
「そんなに話したかったら、タイミング見計らって行けばいいじゃない」
注文をし終えたらしい香織さんの声が耳に入る。私は、視線をまた香織さんに戻すと、ぷくっと頬を膨らませた。
「そんなに簡単なことじゃないですよー!だって、部長はただえさえ人望も厚くて人気でかっこいいのに、こういう場にはあまり現れないレアキャラなんですから、私なんかが割り込める隙があるわけないじゃないですか」
もう、とため息混じりに声を漏らした私は目の前にあるオレンジジュースの入ったグラスを手にとり、ストローに口をつけた。