神木部長、婚姻届を受理してください!

「お待たせしました!」

 会社を出てすぐ側にある喫煙所。そのガラス張りの壁に背中を預けて待っていた部長を見つけた私は、急ぎ足で駆け寄った。

「お疲れさま」

 口角を上げた部長が、喫煙所の壁から背中を離した。

「お疲れさまです」

 いつもと同じスーツ姿で、いつもと変わらないはずの部長。だけど、今日はいつもよりももっとキラキラして見えた。

 ああ、私、この人と付き合ってるんだ。なんて、今更実感しては嬉しくなる。


「どこか行きたいところはある? あと、食べたいものとか」

「ええっと……」

 顎に手を当てて考え始める。行きたいところと言われても、お店に詳しいわけでもなんでもない私には難しい質問だった。

 食べたいものを考えてみても、お腹が空いているからか何でも食べたい気分。それに。

「部長と行けるなら、どこでも行きたいですし、何でも食べたいです!」

 これが、正直な意見だった。

 部長は、私の返答に一瞬目を丸くすると、小さく口を開いた。

「本当、立川のそういうところ。ずるいよなあ」

 参った、と呟くように言うと、髪をかき乱して数は先を歩き出す。そんな部長を足早に追いかけると、部長の右手が私の方へ差し出された。

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