神木部長、婚姻届を受理してください!
「えっ?」
私と、私の左側に立つ部長との間に浮いている、部長の細くて長い右手。
「手、繋がないのか?」
宙に浮いた部長の右手をじっと見つめていると、そんな言葉が降ってきた。あまりにも信じられない言葉に驚き、顔を上げると、そこにはいつもと変わらない表情で私に手を差し出す部長がいる。
「えっ⁉︎」
「会社じゃ恋人らしいことも出来ないから。ここで許して」
宙に浮いた部長の指先に、ゆっくり左手の指先を近づけた。ゆっくり、ゆっくり触れて、絡めた指先はどちらからともなくお互いにきつく握り返した。
部長とデートができて、部長とこんな風に街を歩けるなんて、本当に夢にも思わなかった。
昨日の昨日まで、付き合っていることを公表しないでおこうと提案した部長に不満を抱いていたはずだったのに、単純な私はこれだけでご機嫌になってしまう。
悔しいけれど、そのくらい嬉しくて、楽しくて、たくさんの幸せを感じる。
「やったあ」
嬉しいな、と小さく呟いて、繋いだ手の温もりを肌で感じながら私達は日の落ちた街中を歩き続けた。