神木部長、婚姻届を受理してください!

「部長、私、もうこのお店すごく気に入りました!」

 部長が私のためにお店を考えてくれていたことが嬉しくて、私の口角は上がり続けていた。ただえさえ、念願の部長との交際とデートで頬は緩みっぱなしだというのに。これじゃあ、顔の筋肉が一日フル稼働だ。

「そうか。そりゃあ良かった」

 嬉しそうに笑う部長の後ろから、お冷とおしぼりを手にした店員さんがひょこっと顔を出した。

「お冷とおしぼり、お持ちしました。ご注文はお決まりでしょうか?」

「立川、ドリンク決めた?」

「あ、えっと……」

 大体、外食をするときはオレンジジュースを注文するのがお決まりな私。でも、神木部長はお酒を飲むのだろうか。だとしたら、私も……なんて考えていると。

「今日は飲まないよ。明日、休日出勤だし。あ、すみません。オレンジジュースと烏龍茶でお願いします。あと……」

 私の考えを察したのか、神木部長はそう言って私の分のオレンジジュースまで店員さんに注文をお願いすると、何品かメニューも追加した。

「立川、他に何食べたい?」

 そう聞かれた私の目線の先にずっとあるのは〝ポテトフライ〟の文字。居酒屋に行っても、どこに行っても必ず注文しているポテトフライ。

 本当は食べたいけれど、少し前、ネットニュースでポテトフライの注文をする部下に腹が立つ上司が多いという内容を目にしてしまったことのある私は注文を躊躇っていた。

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