神木部長、婚姻届を受理してください!
部長は、変わらずたくさんの人に囲まれながらお酒を飲み続けている。そんな部長をただ黙って見ているだけなんて、つまらなすぎる。
「ちょっと、林田さん。課長、僕のことなんて呼んでなかったじゃないか」
ぼうっと部長を眺める私の耳に、さっき課長の元へ去ったはずの田口さんの声が入ってきた。
「あ、そうですか? すみません。気のせいだったみたいですね」
香織さんは嘘を認めることはせず、平然としている。そんな香織さんに田口さんは「全く。立川ちゃんから離れて欲しいだけだろう?」なんてぶつぶつと呟きながら、空いていた私の向かい側の席に座った。
「立川ちゃんは、今日もオレンジジュースか」
「はい。お酒、あまり飲めないので」
私の手元にあるオレンジジュースを見た田口さんが、少しだけつまらなそうな顔をした。
「そうかあ、立川ちゃんも呑んでくれたらもっと楽しくなるだろうに。残念だ」
田口さんの言葉に、私は愛想笑いを返す。特に田口さんの言葉を気にしているわけではないけれど、こういう場に来たとき私も楽しくお酒を飲めたらな、とは思うけれどお酒に弱い私は、いつもオレンジジュースなのだ。
「沙耶ちゃんにあんまりそういう事言わないでください。沙耶ちゃん、お酒弱いって前にも言いませんでした?」
姉というよりは、もはや私の母のようなポジションにいる香織さんが田口さんを冷たい眼差しで見ながら捩じ伏せにかかった。