神木部長、婚姻届を受理してください!
「うん。恋人同士だし、そっちの方がしっくりくるな」
こくこくと二度頷き、目の前に並ぶだし巻き卵を口に運んだ。もぐもぐと口を動かし、口の中にだし巻き卵が無くなると、「あ」と何かを思い出したかのように声を漏らした。
「沙耶。来週の日曜日、予定空いてる?」
「えっ⁉︎ あ、えっと、はい!空いてます!」
突然の名前呼びに戸惑った私の声が若干裏返った。
私は、声が裏返った恥ずかしさと、名前を呼ばれたことに対する胸の高鳴りとで、段々顔が熱くなるのを感じ、両手で頬を包み冷やした。
「よし。それじゃあ、デートでもしようか」
「はい!是非!」
「また、どこ行きたいか考えておいて」
「はい!分かりました」
彼と行ってみたい場所なんて数え切れないほどある。一体今まで、どれだけ聡介さんとの理想のデートを想像して来たことか。
「沙耶、ちょっとにやにやしすぎ」
「えへへ。だって、嬉しくて」
呆れたように笑う聡介さんに、へらへらと笑って返す。
今まで一人で勝手に描いて来た理想が、これからひとつずつ現実になろうとしているんだ。こんなの、にやけない方が難しい話で。私は、下がらない口角をそのままに料理を口に運んだ。