神木部長、婚姻届を受理してください!


───21時過ぎ。

 やはり今日中に終わらせたい業務は片付かず、オフィスで一人、私はひたすら設計資料のコピーと会議資料の準備を行なっていた。

 窓の外の景色は、もうとっくに真っ暗。ふと何度か窓の外を眺めていると、他の建物の明かりも徐々に消えていっているのが分かった。


「寂しいなあ」

 お昼間は話し声や、パソコンのキーボードを打つ音。それから、コピー機がフル稼働していてがやがやとしているはずのオフィス。だけど、今、私の呟いた言葉は想像以上に大きく響いた。

 夜って、どうしてこんなにも寂しいのだろう。

 特に理由があるわけでもないのに、無性に虚しくて、人の温もりに触れたくなる。魔法にかかってしまったような、そんな感覚になる不思議な時間だ。

 椅子の背もたれに上半身を預け、ゆっくり瞼を閉じる。

 こんな事をしていたら寝てしまう、と分かっていながらも、気持ちが良くてなかなか閉じた瞼を開けられないでいた。

 時計の針の秒針と、時々、背もたれにぐっと体重を預けると軋んだような音を立てるイス。そんな音を耳にしながら今にも寝そうになっていると。

「こらこら、そんなことしてたら寝ちゃうだろ」

 起きなさい、と優しくて暖かい、私の大好きな声が降ってきた。

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