神木部長、婚姻届を受理してください!
「神木部長!」
私は、慌てて瞼を開けると背もたれから勢いよく背中を離した。
「まだ、残っていらっしゃったんですか?」
「帰ろうかな、と思ってたら〝寂しいなあ〟って立川の声が聞こえてきた気がして。覗いてみたら、こうやって居眠りしてた」
あの独り言、聞かれていたのか。
てっきり誰もいないと安心して呟いた一言をまさか聡介さんに聞かれていたとは思わなかった。しかも、それだけではなく、瞼を閉じたまま寝ようとしていた姿を見られてしまったなんて……考えれば考えるほど恥ずかしくなって、私の顔は少し熱くなった。
「まだ終わりそうにない?」
「え、あ……今日、これだけは終わらせようと思ってて」
目の前にある資料の束に目をやる。すると、私の視線についてくるようにして部長も私のデスクに積まれた資料を見た。
「ん。分かった。手伝う」
「えっ⁉︎」
「二人でやった方が早いし、その方が、長く一緒に居られるしな」
さらり、と流れるように発せられた一言に、私の目は丸くなった。
「ほら、早く手を動かす」
「あ、は、はい!」
聡介さんの発した言葉の余韻に浸る余裕もなく、私は彼の指示でまた仕事に取り組み始める。
聡介さんは隣の香織さんのデスクに腰をかけると、隣で資料をまとめ始めた。