神木部長、婚姻届を受理してください!
会社から駅まで、いつもなら徒歩5分はかかる。オフィスを出る時には既に23時30分を過ぎていたけれど、本当に間に合うのだろうか。
間に合わないかもしれないという不安を抱えながらも、とりあえず走るしかない私は、聡介さんに手をとられ、必死に走り続けた。しかし。
『───行き、間も無く発車します』
私が乗りたかった最終電車は、私たちが駅に着いたとほぼ同時に出発してしまった。
「行っちゃった……」
大きく肩を落とし、乱れていた息を整える。
だんだん遠くへ消えていく電車が走る音を耳にしながら、駅前に一台止まっているタクシーに目を止めた。
仕方がない。あれに乗って帰るしかない。
電車で帰るよりも数倍値段のかかるタクシー。できればこの手は使いたくなかったけれど、最早この最終手段を使うしか道の残されていない私は、意を決して口を開いた。すると。
「うち、来るか?」
目の前にいる彼の口から、そんな言葉が飛び出してきた。
「えっ!」
「俺の家ならすぐそこだからと思ったけど……ご両親も心配するだろうから、帰るなら車出すよ」
どうする? と、優しく私に問いかける聡介さん。
彼は確か一人暮らしだ。そんな彼の家に泊まるということは、一晩二人きり。まだ、朝まで……いや、明日の夕方まで一緒の空間に居られるということだ。