神木部長、婚姻届を受理してください!
田口さんは、香織さんの言葉と視線に怯んだのか少し黙り込むと、メニューを見始めた。
私はまた、部長の方をちらりと見ては話しかける隙を探す。だけど、そんな隙はやはり一向に来てはくれなさそうだ。
楽しそうにしている部長を横目にため息をついたとき。突然、カバンの中から携帯を取り出した香織さんが立ち上がった。
「沙耶ちゃん。私、ちょっと外で電話出てくるね」
「あ、はい!外暗いので、気をつけてください」
「はいはい。私なら大丈夫よ。ありがと」
右手をひらひらと振りながらお店を後にする香織さんの携帯に着信をかけた相手は、恐らく旦那さんだろう。
いつも、飲み会の度に〝今日は何時に迎えに行こうか?〟と連絡をくれるらしい旦那さん。改めて、仲の良い夫婦だな、と香織さんを羨ましく思っていると。
「立川ちゃんはさ、神木部長のどこがいいんだい? いくら35歳だと言っても、君からしたらおじさんだろう」
向かいの席の田口さんが、メニュー表をテーブルの上に立てながら私に問いかけてきた。
「え、そんなの決まってるじゃないですか。顔も髪型もスタイルも優しいところも仕事してるところも全部です!それに、私にとって部長はおじさんなんかじゃないです」