神木部長、婚姻届を受理してください!
「来週にはひと段落つきそうだから。落ち着いたら、ちゃんとデートしような」
細くて長い。だけど、少し節の太い男らしさの感じる大きな手で私の髪を優しく撫でる。
返事の代わりに一度大きく頷いた私に笑いかけた聡介さんは、「沙耶」と優しく呼ぶと、両手を私の背中に回した。
「ぶ、部長、ここ会社です!」
「ごめん。少しだけ」
ゆっくり聡介さんの腕に包まれた私は予測のできなかった状況に戸惑いを隠せず、ただそのまま聡介さんの腕に包まれていた。
非常階段とはいえ、誰かが扉を開ければ真っ先に視界に入ってしまうような場所にいる私と聡介さん。こんな姿が見られてしまえば、困るのは聡介さんの方だ。
バレてしまったらどうしようという不安と、でも、それ以上にまだこうしていたいという気持ちとで複雑になる感情。
ただぶら下がり宙に浮いていた両腕を聡介さんの背中に回してしまおうか、と思ったその時。ゆっくり聡介さんが私から離れた。
「ごめん、こんな所で。最近、仕事でいっぱいいっぱいでさ」
格好悪いところ見せちゃったな、と言って聡介さんが苦笑いを浮かべた。
「そんなことないです!いつも聡介さんは格好良いです!」
大きく首を横に振る。すると、聡介さんは柔らかく笑って、私の髪を優しく撫でた。