光~明るいほうへ~
望むべき先には
「清香(キヨカ)ちゃん、じゃあまた連絡するよ」
グチャグチャになったベッドの上にたたずみ、シーツのシワをぼんやりと眺めているとこの部屋の料金を投げるように置かれる。
視線の先をたどれば、スーツ姿の男は一足先に帰り支度をすませ満足そうに出て行った。
暖色系の灯りのもとですらわかるシーツの白さが無性に苛立たしくて、その上に置かれたお札を拳の力いっぱいに握りしめ、床に投げ捨てる。
それでも苛立ちはおさまらず、ベッドから飛び出すとその紙を踏み潰す。
そして、その上にしゃがみ込んでひっそりと涙を流した。
泣いているうちに少しだけ冷静になってぐちゃぐちゃになったお札を拾ううちにみじめな心地がするのが嬉しかった。
この部屋の料金に小銭のおつりがくる程度。
これが私の今日の価値。
最初はみんな色をつけようとしてくれる。
だけど、私にはそんな資格ないのだ。
ホテル代だけ出してもらえれば上等の、それくらいの価値しかない人間なのだ。
今日会った男には清香。清潔さを感じる名前。
こないだ会った男には聖子(セイコ)。聖母や聖人を思わせる名前。
そういった具合に、自分の存在とは対極にある名前を名乗っていた。
大学進学のため上京した私は相変わらず自分で自分の身を澱んだ水に沈め続けていた。
染まれ染まれ染まれ。
まるで呪いの呪文のように唱えていた。