光~明るいほうへ~
「夏休みいつから?」
「さ来週だよ」
最近ではバイトの上がり時間が同じだと駅まで一緒に帰るようになった。
この時間がすごくすごく楽しかった。
本当にハタから見ればささいなことだろうけれど、私、生きてるんだなって実感した。
たったこれだけの事だけれど、私は明日からも生きていける、そんな風に思えた。
この日もいつものようにそんな想いがじんわりと胸にひろがっていた。そんな時だった。
「清香ちゃん」
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを張りつけて駅の近くで待ち伏せていたのはあの男。
暗がりからぬうっと現れた。
私の足もとに無数の手が出ている。
私を引きずり込もうとしている。
お前はそっちの世界の人間じゃないんだよ。
さぁおいで。
おいで、おいで。
お前に明るい世界なんて似合わないんだよ。
お前はこっちの澱んだ世界がお似合いなんだよ。
全身の毛穴という毛穴から汗がどっと噴き出してくるようだった。