ここにはいられない
玄関に走って鍵を確認する。
ナンバーロックは電池だから停電でも関係なく作動していた。
暗唱番号はもちろん誰にも教えていないけど、ドアガードもしっかりする。
窓という窓の施錠も目視だけじゃなく、手で押し直して確認した。
万全のつもりで用意しておいたライトはとても小さく、足元を照らしたり家具の下の捜し物をするには十分だけど、部屋の灯りとしては弱すぎた。
キャンドルもアロマポット用の小さなもので、ぼんやりした小さな灯りは、部屋の闇をより濃くするだけに見える。
アルミホイルを周りに敷いてみても、十分とは言えなかった。
日が落ちると寒さで身体が震えてきた。
ニットとコートを着込み、ベッドから持ってきた毛布を掛けても手足から冷える。
多少灯油があったところで電気がなければ使えないし、エアコンは言うまでもない。
車で暖を取る方法もあるけれど、本当に必要な時にガス欠になられたら困るので、ギリギリまで我慢することにした。
何しろ、ガソリンスタンドに向かう途中だったのだ。
買いだめした食材は冷えない冷蔵庫の中にたくさんあるけれど、料理をしようという気持ちになれない。
ただひたすらキャンドルの灯りを見つめ、夜が明けるのを待つだけだ。
いっそベッドに入ってしまえば寒さは感じなくなるかもしれない。
だけど常夜灯もないこの暗闇で一人、眠れる気がしなかった。
同じ夜でもつけようと思えば電気をつけられる夜と、それができない夜では闇の重さが全然違う。
もし誰かがいてくれたら。
人の気配はそれだけで救いだ。
例え状況が全く改善せず、小さな灯りと寒い部屋だったとしても、それを分かち合う人が一人でもいてくれたなら、気持ちは全然違ったのに。
千隼と同居していた時だったら、暗い中でも何か温まるものを作って、一晩一緒にリビングで過ごしたりしたのだろう。
布団を下ろして2枚並べて寝たかもしれない。
私が怖がりなことを彼はよく知っているし、それをバカにしたり見捨てたことはない人だから。
闇から目を逸らし、マッチをする少女のように灯りの中に夢をみる。
誰かと一緒に過ごした、明るく暖かい日々を。