ここにはいられない
明るさというのは力だと思う。
停電という状況は変わらなくても明るいだけで気持ちは強くなるし、実際できることも増える。
私の部屋で和泉さんと二人で洗面、歯磨き、着替えを済ませ、土鍋でご飯を炊いた。
暗がりだと水加減も頃合いもわからないから昨日はできなかったのだ。
炊きたてのご飯と、冷凍庫の中で不本意にも自然解凍されてしまった明太子、目玉焼き、昨日の残りの牛丼それから豆腐とワカメのお味噌汁を朝食にする。
「あー!店長、お肉全部食べちゃったんですか?もう玉ねぎしか残ってない!」
「違う、違う。和泉さんには出汁の染み込んだ美味しいところを食べて欲しくて!俺なんて、ただの出がらし肉さ」
「私だって出がらし肉がよかったー。店長、まさか玉ねぎ嫌いなんですか?」
「君が思うほど俺は完璧な人間じゃないんだよ」
「じゃあ完璧を目指して玉ねぎ食べてください!」
二人の様子を長田さんが目を細めて笑いながら明太子を口に運ぶ。
鳥の声なんて聞こえないほど、朝からとても騒々しい。
誰かと迎える朝は久しぶりだけど、千隼とはまた違う朝だ。
千隼は昨日どんな夜を越え、今どんな朝を迎えているのだろう。