ここにはいられない
明るくなって目を開いて、今、改めて考えると、千隼の行動はある種のラインを大幅に越えていたと思う。
私が暗いのが苦手だと知っていても普通ならわざわざ訪ねて来たりしない。
次に会った時「この前大丈夫だった?」って声を掛ける程度がせいぜいだろう。
まして、抱き締めたりなんかしない。
あれはやっぱり、そういうことなんだろうな。
大学時代に告白されたこともあったし、親しくしていた男友達に想いを匂わされたこともある。
大ちゃんから離れたくて県外に出たのに、結局忘れられず、新しい恋には踏み出せなかった。
だけどその時は「本当に申し訳ない」という気持ちしかなかった。
今私が千隼に感じている気持ちはそれとは違って、今まで知らなかったものだ。
あまりに理解できないからとても怖い。
昨日はそんな想いでいっぱいだった。
千隼がどう受け取ったのかはわからないけど。
だけど同時に千隼は「大地じゃなくてごめん」とも言っていた。
私が大ちゃんを好きだってことも彼は知っている。
何かを直接言われたわけでもないし、答えを返す必要はないはずだ。
ほとんど会うこともないのだから、千隼の方でもそのうち忘れるだろう。
そう思うのに、全然心が離れて行かない。
ずっと慢性的にドキドキし続けていて「どうしよう、どうしよう」ばかり頭の中をぐるぐる回る。
私の心は私に一体どうしろと言うのか。
その日の夕方に停電は解除されたけれど、私の中で答えは出ないままだった。