ここにはいられない
やさしくしっかりと重ねられた唇が確認するようにわずかに吸いつく。
グッと深めても、奥に入り込んでも、大ちゃんはやっぱり大ちゃんで、とても優しい。
これが私が好きだった人。
ずっとずっと好きだった人。
そのはずなのに。
嫌だとまでは言わないけれど、早く終わればいいと思った。
大ちゃんとの触れ合いは安心できるし好きだけれど、それは〈人のぬくもり〉以上のものではなく、他の誰かでも代わりの利くものだ。
ちょうど停電の夜に和泉さんと一緒に寝た時感じたものと全く同じ。
やっと手にした〈欲しかったもの〉は、手の中でその色味を失っていた。
いや、〈本当に欲しいもの〉が別にあるとはっきりわかった。
そのことを自覚して、ゆっくりと、けれど強い力と意志を持って大ちゃんを押し戻した。
大ちゃんは抵抗せずに離れ、私の反応を伺うようにじっと表情をのぞき込む。
きっと私の目は今ものすごく凪いでいると思う。
同時に私も真正面から大ちゃんを見つめた。
ずっとずっと好きで、忘れられなくて、傷ついても傷ついても追い求めた人。
そしてそれがすべて過ぎ去ってしまった人。
抱き締められて、キスをして、私はもう大ちゃんに恋をしていないと気付いた。
私が欲しいのは安心できる腕じゃない。
きれいに収まる心じゃない。
私が本当に欲しいのは、身体の中が痛くて、じっとなんてしていられなくて、肌という肌が過敏になって、居心地が悪くて、頭の中がおかしくなりそうな、あの場所だ。