ここにはいられない
途方に暮れたように見つめ合う私たちを決定的に引き離したのは、照明さえ揺るがすほどの強い光だった。
同時に窓の方を見た大ちゃんと私が口を開きかけた時、ゴロゴロゴロゴロという大きな音が地響きと一緒に届いた。
わかっていたけど確認する。
「・・・雷?」
「うん」
名残惜しさも見せずに立ち上がった大ちゃんは、指先でカーテンにそっと穴を開けて外を見る。
「急に降ってきた」
言われるまでもなく、ビチビチと叩きつけるような雨音が響いていた。
それだけで程度のひどさが伺える。
さっきまでカラリと乾いていた駐車場にはすでに大きな水たまりができていて、排水溝に向かって濁流のような流れが見える。
また強い稲光がドロリとした空を走り、今度はさほど間を置かずにドコドコドコという大きな音と振動がした。
「━━━━━かな」
雨音があまりに大きくて、大ちゃんの声が聞こえなかった。
「え?何?」
少し大きな声で聞き返すと、空のどこかを見たまま悲しげに眉を下げた。
「大丈夫かな。里奈、雷が苦手なんだ」
これが真実だと思った。
暗闇は怖いけれど、雷は明るいから嫌いじゃない。
私と里奈は全然違う。
里奈の行動に傷つき、「別れる」と言って、私を抱き締めキスをしても、大ちゃんの心は里奈の上から微動だにしていない。
きっと身体を重ねたところで変わらない。
そしてそれは私も一緒。
私の心は、もうずっとあの古い公舎の中にある。
「タクシー呼ぶね」
雨も空も雷も通り越した向こうを見ながら、大ちゃんはもう拒否しなかった。