ここにはいられない
タクシーが敷地を出るまで見送ると、私は走って部屋に戻った。
ぐっしょり濡れた靴下だけポイポイ脱いで、書類ケースをひっくり返して詰め込まれたクリアファイルを次々に確認していく。
乳幼児健診日程表、確定申告の手引き、インフルエンザ予防接種助成金申請書・・・
大事な書類は捨ててない。
だから絶対にある。
けれど不必要な書類も含めて全然整理していなかった。
書類ケースの中には結局入ってなくて、パソコンの横に立ててあるファイルを焦りながらめくっていく。
「あった!」
『非常時勤務当番表』
停電の時確認して以来、意識するようになっていた当番。
女性や家庭に事情がある人は考慮してもらえるけれど、独身の男性職員はほとんど絶対だ。
当番になって1ヶ月何もなければ次の班に移る。
だから自分が何班に所属していて、今何班が当番なのかは把握しておかなければならないし、今では当番には自動的にメールが届くシステムになっている。
今日の当番である7班の中に『都市計画課 榊千隼』とあった。
避難指示が出たなら、現場に行く人と庁舎で待機する人が必要だから8班も召集されたかもしれない。
そして大事なのは、千隼がどちらなのかということだった。
もし避難指示の現場に行くなら、この雨の中、街灯もない細い山道を車で行くということだ。
土砂崩れが起こるかもしれない場所へ。
つまりは、その途中だって土砂崩れの危険がある。