ここにはいられない
ビチビチと降る雨は弱まる気配もない。
私にできることは何一つなかった。
雷はおさまったのに雨足はむしろ強まったように思う。
もう里奈や大ちゃんのことを考えている余裕はなくなっていた。
何をするわけでもなくただただ降りしきる雨を見つめる。
意味がないのに窓を離れられない。
千隼が今どうしているのかなんて、考えてわかることではないし、むしろエネルギーの無駄。
無駄なんだ。
「寝よう」
言い聞かせるようにわざと口に出して窓を離れた。
バクバク言う心臓は収まらず、いつもと同じように歯磨きをしても着替えをしても、手足の感覚がどこか曖昧だった。
ベッドに入って電気を消すと、雨音と心臓の音だけが余計に強調されて眠気は全く訪れない。
暗がりで何度も携帯を見て時刻を確認する。
画面だけはまぶしく、進まないデジタル時計が2時43分を表示していた。
警報が発令されて2時間。
避難指示が出ているのだから、当然当番はもう到着したはずだ。
「迷惑」とか「職権乱用」とか色々な言葉が頭をかすめたけど、このままこの夜を乗り越えられる気がしなかった。
「━━━━━もしもし、お疲れさまです。子どもみらい課の志水と申します」
『あ、はい。お疲れさまです』
電話に出たのは4、50代と思われる男性職員だった。
声だけで誰かはわからないが、反応からして知り合いではなさそう。
当然のことがなら驚きと不審が混じったような空気を出している。
が、もう気にしていられない。
「あの、都市計画課の榊主事は出勤していますか?」
たくさんの言い訳を考えたけれど、結局は何も言わなかった。
シンプルに一番知りたいことだけを聞く。
『あー、榊さんは避難所の方に行きましたよ。小学校が避難場所になっているので、そっちで防災課の職員や県から派遣された職員さんたちと連携して避難誘導に当たっているはずです』
辛うじて「ありがとうございます」と言えたはずだ。
切ったのか切れたのかわからない電話を持ったまま、私はまた止まない雨に目を向けていた。