ここにはいられない
9 カレーライスと証明



昨夜の大雨から一転、もう涙は枯れちゃったの、というように冴え渡った青空が広がっている。
埃が少ないせいでいつも以上に鮮やかに。
まだまだ乾かない地面を歩くピシャピシャという音さえ楽しげなほどに。


「菊池さん、おはようございます」

「志水さん、おはよう。こんなに遅いの珍しいね」

「はい・・・ちょっと寝坊してしまって」

佃さんによって朝の清掃は済んでいるようだったけれど、本人の姿はない。
恐らくバケツを片付けにでも行っているのだろう。

カップボードにはパカッと口を開けたグレーのポットが2つ並んでいる。
パソコンの電源だけ入れて、私はそのポットを持って給湯室に向かう。
私が遅かったせいなのか、千隼がもっと遅かったのか、今日はすれ違わなかった。


もうすでに他の課はお湯を持っていったらしく、給湯室には誰もいない。
でもドアは開けられてストッパーでしっかりと押さえられていた。

湯沸かし機の温度が100℃を示していることを確認してポットにお湯を注いでいると、

「あ、菜乃」

と弱々しい声が背中に届いた。

「あ、大ちゃんおはよう。今日も仕事?」

一度振り返って声を掛け、いっぱいになったポットの蓋を閉じてから再び振り向くと、大ちゃんはまだモジモジと入り口付近を漂っていた。

「いや、今日は、その、菜乃に会いに来た」

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