ここにはいられない
「・・・キス?その先?」
もう見慣れた無表情で、千隼は大ちゃんを見下ろしていた。
慌てた私はつい大声を出す。
「その先なんてない!千隼、後でちゃんと説明するから!」
「大地、菜乃にキスしたの?」
私の存在ごと無視して、千隼は大ちゃんに詰め寄る。
大ちゃんの方も気まずそうにしながらずりずり壁際に後ずさった。
「いや、あの、うん。里奈とのことで自棄になってて、酒も入ってたし。でも!菜乃に気があるとかそういうことじゃない!俺が好きなのは里奈だから。だから里奈には言わないでくれ!頼む!」
追い詰められて固く両手を合わせる大ちゃんの願いを、千隼はあっさり蹴り飛ばした。
「里奈なんかどうでもいいよ」
言うなり乱暴に大ちゃんの頭に掴みかかると、そのまま唇に噛み付いた。
千隼はその仕事ぶり同様、きっちり丁寧に要領良く大ちゃんの唇を舐め取った。
状況を理解できていない大ちゃんは目を大きく開いたまま固まっていて、それをいいことに舌や頬の内側、歯と歯茎までしっかり拭き清めるように舌を回す。
最後にちゅうっと吸い付いてからパッと離れ、作業着の袖口で口を拭う。
ここまでを千隼は眉ひとつ動かすことなくやってのけた。