ここにはいられない
そんな生活が2、3日続いて、少し困ったことがある。
私は幼い頃から今でも暗いのが苦手で、恥ずかしいけれど夜中のトイレがとても怖い。
大人になって「暗いのが苦手」なんて言っていられない場面はたくさんあるから、我慢して何でもない風を装っているけれど、「怖い」と思う気持ちまではどうしようもない。
自分の家はさすがに慣れているものの、夜中ずっと階段の電気はつけている。
寝ぼけて自分の家のトイレをうっかり使わないように、引き戸にはつっかえ棒をしてドアを塞いである。
それでも一度ドアに手を掛けてから「ああ、外に出ないといけないんだった」とぼんやりした頭が冴えるのだった。
靴を履いて毎回勇気を振り絞り、3部屋離れた彼の部屋まで全速力で走る。
ドアを開け転ぶように中に入ると少しホッとして、トイレを済ませ、また勇気を出して自分の部屋まで走る。
他人の家のトイレを借りることよりも、こちらの方がずっとストレスを感じていた。
いっそオムツにしてしまおうかと何度か心が揺らぐほど。
その夜も私は勇気を出して自分の家を飛び出した。
その途端、公舎のすぐ横の通りを自転車で通っていた警察官がビクッとする姿が目に入った。
さすがに気まずくて軽く会釈をし、いつもは走るところを早歩きに変えて彼の部屋に向かった。