ここにはいられない
3 カレーライスとオムレツサンド
引っ越すわけではないので特別な準備は必要なかった。
私がしたことは布団をまとめて布団袋に入れただけ。
今日は彼も定時に上がってくれたので、私の家の玄関から部屋まで布団も運んでくれた。
「大丈夫です!自分で運びますから!」
「モタモタされるより俺がやった方が早い」
少しイラッとされて強引に奪われたので、反論もできずそのままお願いしてしまった。
借りる部屋は確かにヒーターなどの季節ものや、ダンボールの空き箱などが隅の方に雑然と置いてあるものの、私一人くらいは十分に間借りできるほど片付いていた。
私も彼と同じように手前の部屋を寝室、奥の部屋を物置にしているけれど、私の方がもっと物が多い。
取り付けてくれた内鍵は本当に簡単なものだった。
片方が輪になった釘、もう片方はフック状になっていて、その輪にフックを引っかけるだけのもの。
後は取り壊すだけだから改装するにも遠慮はいらないけれど、襖に素人が取り付けられる鍵なんてこの程度だろう。
階段を降りる時、彼の寝室の襖が3分の1ほど開いていた。
見えたのは一部分だけだったけど、私と同じようにシングルベッドが窓にくっつくような形で置かれている。
掛け布団とタオルケットが半分めくられたようになっていてるのは、朝起きた状態のままだからなのだろう。
クローゼットなんてないから、ハンガーラックに私服もスーツも作業着もごちゃごちゃにかかっている。
リビングといい、トイレといい、「必要なものが必要なだけあればいい」と言っているような簡素な部屋だ。
そんな中にこれからしばらく、「不必要」な私が入る・・・。