ここにはいられない
オムレツサンドを白いお皿に乗せ、ミニトマトとレタスを添えてラップをかける。
一度それを彼の部屋に運んでから戻って、落としたばかりのコーヒーポット、ミルク、シュガーを持って再び移動した。
すると黒いローテーブルに並んだサンドイッチの前で、彼はボーッと立っていた。
「あ、おはようございます」
寝起きでどことなく視線の定まらない目をメガネ越しに送って、かすれた声で挨拶を返してくれる。
「・・・おはよう、ございます」
「これ、一人で食べるにはちょっと多いので、よかったら食べてください」
「えっと・・・俺、朝は・・・」
「コーヒーも淹れて来たんですけど、カップはお借りしていいですか?」
「・・・はい、どうぞ」
ペアのカップなんてものはなくて、小振りで縦に細長いものとゴツゴツと大きなカップ、それぞれにコーヒーを注いで大きな方を彼に渡した。
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
窓の外には今日も暑くなりそうなよく晴れた空が広がっていて、部屋の中も隅々までとても明るい。
一人の時は見るともなしにテレビをつけてしまうのだけど、彼もつけようとはしなかった。
会話もなく食べ進めているので、パンを噛むカリッという音やレタスのパリパリという音、どこかで鳴く鳥の声まで聞こえてとても豊かな空間に思える。
パジャマ代わりのTシャツにハーフパンツ姿のままの彼は後頭部の右側の髪が少しだけ跳ねていて、変わらず素っ気ないメガネとの対比で妙にかわいらしい。
実家でもそれぞれが自分のペースで朝食をとるから、誰かとこんな風にゆったりと朝を過ごすなんていつ以来だろう、と思う。
いつもより少しだけ手をかけたサンドイッチは野菜や卵も入っていてただのトーストよりは栄養がある。
でもそれだけじゃなくて、身体の中に沁みていくような気がした。
豊かな時間は心も豊かにする。
そしてこんなに豊かな朝を、私は他に知らない。