ここにはいられない
その夜10時に帰ってきた彼は、コンビニの袋を下げていた。
中にはお弁当のプラスチック容器が見える。
「・・・おかえりなさい」
声が震えた。
黒いローテーブルの上には秋鮭のムニエル、大根と鶏肉の煮物がラップしてあり、コンロには豆腐とネギのお味噌汁の小鍋がかかっていた。
「ただいま」
彼の方でもテーブルを見て、私と同じように気まずい空気を放つ。
これは私が勝手にやったことで、頼まれてもいなければ、伝えてもいなかった。
だから彼が自分で夕食を用意するのは当然のこと。
恥ずかしさと、負担をかけてはいけない、という思いで、私は必死に言い訳を並べた。
「あの、一人分だけってなかなか作れないから、余っちゃっただけです。別に食べる義務はないし、気を使わなくていいです。これも明日の朝ご飯にしますから!」
慌てて片付けようとする私を手で制した彼は、コンビニ弁当を袋ごと冷蔵庫に突っ込んだ。
お味噌汁を温めて、炊飯器からご飯を盛り、テーブルの前に座る。
「いただきます」
「・・・はい」
黙々と箸を運ぶ彼の正面に、なんとなく座る。
相変わらず「うん」とも「すん」とも言わないけれど、拒絶するような雰囲気はないから。
「お弁当、いいんですか?」
「明日のお昼、職場で食べます」
「消費期限過ぎますよ?」
「一日くらい大丈夫」