ここにはいられない
やっぱりきれいに空っぽにしてくれたお皿が嬉しくて、でもそれを表情に表すことはしなかった。
「ごちそうさまでした」
「いえ。こちらこそ、すみませんでした」
お皿を下げようとすると手で止められて、彼が自分で洗った。
お風呂も入ってきて、もう寝るだけの私はすることもないのだけど、リビングのソファーでその後ろ姿をぼんやりと見ていた。
「明日の夜は友達と飲みに行きます」
洗い物が終わってタオルで手を拭きながら彼は私にそう告げた。
それはつまり、「夕食はいらない」ということで、少しガッカリして思わず俯いてしまうと、
「これから食べられない時は事前に言います」
と付け足された。
「それって、食べられる時は食べてくれるってこと?」「また作ってもいいってこと?」そういう期待で胸はいっぱいになったのだけど、至って事務的な顔で答えた。
「わかりました。では、おやすみなさい」
結果的に、その『友達』こそ大ちゃんだったわけだけど、当然そんなことは知るはずもなく。
こうして私は彼、千隼と一緒に寝起きし、一緒にご飯を食べる生活をするようになったのだ。