ここにはいられない


やっぱりきれいに空っぽにしてくれたお皿が嬉しくて、でもそれを表情に表すことはしなかった。

「ごちそうさまでした」

「いえ。こちらこそ、すみませんでした」


お皿を下げようとすると手で止められて、彼が自分で洗った。
お風呂も入ってきて、もう寝るだけの私はすることもないのだけど、リビングのソファーでその後ろ姿をぼんやりと見ていた。

「明日の夜は友達と飲みに行きます」

洗い物が終わってタオルで手を拭きながら彼は私にそう告げた。
それはつまり、「夕食はいらない」ということで、少しガッカリして思わず俯いてしまうと、

「これから食べられない時は事前に言います」

と付け足された。

「それって、食べられる時は食べてくれるってこと?」「また作ってもいいってこと?」そういう期待で胸はいっぱいになったのだけど、至って事務的な顔で答えた。

「わかりました。では、おやすみなさい」



結果的に、その『友達』こそ大ちゃんだったわけだけど、当然そんなことは知るはずもなく。
こうして私は彼、千隼と一緒に寝起きし、一緒にご飯を食べる生活をするようになったのだ。





< 51 / 147 >

この作品をシェア

pagetop