ここにはいられない

「壊れたのがお風呂やキッチンだったら、どうとでもなったんだけどね」

お風呂なら外に入りに行けばいいし、食事も一月くらいならどうにかなる。

でもトイレはどうしようもない。
どうしようもなかったから、今こんなことになっている。

「だけど大ちゃんと里奈には誤解されちゃったな」

たったあれだけのことであの騒ぎだ。
もし「一緒に住んでる」なんてバレたら、ただ事では済まない。
まあ、それはあの二人に限ったことではなく、誰が聞いても当然の誤解をするだろうけど。

「大地にはちゃんと誤解を解いておくから」

私は別に構わないんだけど、困るのは千隼の方かもしれないと思い直した。

「必要なら、そうして」


あと2週間もすれば私はここを出ていくし、そうなれば同居の事実もなくなる。
いつかこの人も私じゃない別の誰かと、このテーブルを囲む日が来るだろう。
お皿を空っぽにして、豊かな朝を迎えるだろう。

その時私は、誰かとそんな朝を迎えていられるのかな。
大ちゃんでも千隼でもない人と。
幸せで豊かな毎日を。

「やっぱり疲れたな。お風呂入ってくる」

ほどよく冷めたお茶の残りを一気にゴクゴクゴクッと飲み干して、千隼の方は見ないようにして立ち上がった。



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