ここにはいられない
「うちの使っていいよ」
「何が?」
「風呂も洗濯機も。1週間生活するのに必要なもの以外は詰めればいい。食器も洗剤も、うちのを使っていいから」
そうさせてもらえるなら、多少の衣類と化粧品以外は荷造りできる。
それこそカーテンもカーペットも、キッチン用品も全部。
「え?でも、いいの?」
「今更?」
プッと吹き出すように笑われてしまった。
他の人と比べるとまだまだだけど、千隼は言葉数も表情も、最近だいぶ増えた。
「一ヶ月食事の面倒をみてもらったから、これくらいしないと」
食事を作り出してから、千隼は何度も食費を渡そうとしてきたのだけど、お世話になっているのは私なので受け取らなかった。
確かに毎日2人分の食事を用意するのは手間とお金がかったけれど、それだって外食数回分程度の金額だし、何より私が楽しかったから。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、どうぞ」
「洗濯はさすがに別々にやって、部屋に干すね」
「うん」
「お風呂の時間はどうしよう?私は一週間だけならシャワーでいいけど」
「俺は寝る前に入る」
「じゃあ、私は帰ってすぐに借りるね」
とうとう完全に同居することになってしまった。
だけどそれはゴールに向かうラストスパートで、駆け抜けた先にあるのは別れだ。
一月前は顔も知らなかったのに、いつの間にかずっとこんな生活が続くような錯覚に陥る時がある。
だけど、ずっとここにはいられないのだ。
千隼にだって私にだって、違う未来がある。