ここにはいられない

「うちの使っていいよ」

「何が?」

「風呂も洗濯機も。1週間生活するのに必要なもの以外は詰めればいい。食器も洗剤も、うちのを使っていいから」

そうさせてもらえるなら、多少の衣類と化粧品以外は荷造りできる。
それこそカーテンもカーペットも、キッチン用品も全部。

「え?でも、いいの?」

「今更?」

プッと吹き出すように笑われてしまった。
他の人と比べるとまだまだだけど、千隼は言葉数も表情も、最近だいぶ増えた。

「一ヶ月食事の面倒をみてもらったから、これくらいしないと」


食事を作り出してから、千隼は何度も食費を渡そうとしてきたのだけど、お世話になっているのは私なので受け取らなかった。
確かに毎日2人分の食事を用意するのは手間とお金がかったけれど、それだって外食数回分程度の金額だし、何より私が楽しかったから。

「じゃあ、よろしくお願いします」

「はい、どうぞ」

「洗濯はさすがに別々にやって、部屋に干すね」

「うん」

「お風呂の時間はどうしよう?私は一週間だけならシャワーでいいけど」

「俺は寝る前に入る」

「じゃあ、私は帰ってすぐに借りるね」

とうとう完全に同居することになってしまった。
だけどそれはゴールに向かうラストスパートで、駆け抜けた先にあるのは別れだ。


一月前は顔も知らなかったのに、いつの間にかずっとこんな生活が続くような錯覚に陥る時がある。

だけど、ずっとここにはいられないのだ。
千隼にだって私にだって、違う未来がある。




< 69 / 147 >

この作品をシェア

pagetop