ここにはいられない
黙って私を見下ろしていた千隼は、今度こそはっきりと眉間に皺を寄せた。
「そういう余計な配慮は必要ない」
振り返って見上げる姿勢は辛いのに、目を逸らせる雰囲気ではなかった。
「公務員の時間は税金だって理解してる?」
「・・・税金?」
「正職員と臨時職員では時給だって全然違うし、できる仕事にも差がある。お願いできることはお願いして、自分にしかできない仕事をする方が断然効率的」
時給で働かなくなってから「時間=お金」という感覚はなくなっていた。
自分さえちょっと無理すればいいや、って仕事を抱え込んでいたのも事実。
だけどそんな理屈で割り切れるものでもないと思う。
「残業はつけてないよ」
「サービスだからいいって発想が時間を浪費する原因」
そう言うと反対側に回り込んでイスに座り、ペラリと文書を手に取った。
「入れるのは、この4種類?」
千隼の意図を理解して、少しオーバーなほど両手をブンブン振った。
「いい!いい!大丈夫!大した量じゃないから一人でできる!」
「人が多い方が絶対早い」
「そうだけど、発送はどうせ明日だから急ぐ必要はないし」
「電気代の無駄」
「正職員の時給の方がずっと高いよ」
「同期の手伝いに時給なんか発生しない」
「私は今年入ったから同期じゃない」
「じゃあ同級生」
「一緒の学校だったことないじゃない」
「元同居人のよしみ」
あんなに厳しい言い方しても、結局どこまでもお人好しなのだ。
返しきれない恩を更に重ねることになるけど、好意はありがたく頂戴しよう。
「そっか。元同居人のよしみか。ありがとう」
「ん」