ここにはいられない
◇ ◇ ◇





どうせ里奈も一緒なんだろうと思いつつ、断る選択肢のない私は大ちゃんからの『今夜飲みに行かない?』というメッセージに了承の返事をした。
結婚を前にして浮かれてる想い人に会いに行くなんて、我ながらバカじゃないかと思う。



「いらっしゃいませ~」

沖縄を彷彿とさせる花柄のワンピースに身を包んだママに案内されてみると、大ちゃんが一人ビールを飲んでいた。

「おー、菜乃。お疲れ」

「里奈は?」という疑問はあえて口にせず、ビールを注文して、大ちゃんの他愛ない仕事の話に相槌を打つ。
大ちゃんとは元々気が合うし、話も面白くてさっきからずっと笑ってばかりいる。
にも関わらず、どことなく感じる違和感が拭い去れない。

なんとなく上滑りする会話を続けながら2杯目のビールに口をつけた頃、入り口のドアが開いた。

「いらっしゃいませ~」

「ビール」

「はーい」

来るなりママに注文を済ませた千隼は、向かい合って座る千隼と私の横に立って大ちゃんを見下ろした。

「里奈は?」

「ん?来ない」

それを聞いて大ちゃんの隣に座り、ママからビールを受け取る。

「じゃあ、全員揃ったところで改めてかんぱーい!」

大ちゃんの発声に慌ててジョッキを持ち上げるけど、千隼はやっぱり形だけ持ち上げて、すぐに飲み始めてしまう。
そのため私と大ちゃんが二度目の乾杯をすることになった。



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