ここにはいられない
「ところで千隼は結婚しないの?」
肉じゃがのジャガイモを箸で割って、千隼は大ちゃんを一睨みした。
「そんな相手いない」
「彼女は?」
「いない」
大ちゃんはニヤニヤと私の方に身を乗り出してきた。
「千隼って、こう見えてかなりロマンチストなんだよ」
「ロマンチスト?」
「意外だろー?前に友達同士で飲んだ時に女の子紹介しようとしたらさ、『結婚は、好きな人に出会って、想いが通じて、ずっと一緒にいたいと思ったらする』って言ったんだよ。似合わねーよな?そんなこと言ってたら〈婚活〉なんてできないよ。せっかく公務員は人気なのに」
不機嫌さを隠しもせず、千隼は本題を要求した。
「そういうお前はどうなんだよ。どうせ何かあったんだろ?」
やっぱり本題は別にあったのか、と私も大ちゃんを見ると、相変わらず笑顔のままながらまとう空気はみるみるしぼんでいった。
「何があったってわけじゃないんだけどな。ちょっと、マリッジブルー?」
「大ちゃんが?」
「里奈、かな。でも里奈がマリッジブルーだと俺もそうなるだろ?」
マリッジブルーなんてわかるはずもない私と千隼には、大ちゃんの言葉を待つしかない。