ここにはいられない
「結婚ってさ、プロポーズして、お互いの気持ちを確認したらできるもんだと思ってたんだ。だけど付随するものが多くて。両家への挨拶は当然としても、『式はするのか?』『結納は?』『結納金はどうする?』って本人たち以上に親たちが騒ぐわけ。それで疲れ果てちゃった」
「式するの?」
「するつもりなかったんだけど、『親戚が期待してる。金は出してやるからやれ』ってうちの親がね」
都会ではどうか知らないけど、田舎はまだまだ風習が古い。
それでも私のように親が転勤族だとしがらみも少ないけど、大ちゃんのように代々この土地に住んで親戚も多い家だと、立てなければならない顔も多いのだろう。
「式をすること自体はいいんだよ。里奈も最初は楽しみにしててさ。だけど、俺の親戚がホテルの支配人やってるから式場はそのホテルで、とか、美容師やってる従姉妹がいるからヘアメイクも彼女に頼め、とか里奈の希望はまるで聞いてもらえなくて」
・・・それはきつい。
結婚式が当人だけのもの、とは言わないけれど、完全に無視はないと思う。
それでもお金を出してもらうのなら、文句は言いにくいだろう。
「それでも里奈は『いいよ』って笑って受け入れてくれてたんだ。だから俺も甘えてた。最悪だったのは俺の母親から衣装の指定があったこと。『白無垢着て、赤い打ち掛けに着替えて、白いドレス着て、ピンクのドレスに変えて』って」
赤い打ち掛けはともかく、里奈は黄色とかオレンジ色が似合うし、本人も好きだった。
ピンクって、定番のようでいてかなり人を選ぶ色だと思う。
好きじゃないし似合わないドレスを着て、たくさんの人目にさらされるって嫌だなー。